熔ける 井川意高 双葉社
大王製紙の御曹司として生まれた著者は、現役で東大合格、20代で赤字子会社を建て直し、42歳で大王製紙社長に就任したというまさに超エリートであった。
切れ者経営者として活躍する傍ら、若くして、経済界の重鎮たちと交流、六本木では、夜な夜な有名女性芸能人と浮名を流すという華麗な生活を送っていた。
そんな著者が、マカオ、シンガポールでカジノにはまり、結局、会社の金を流用してなんと106億8000万円を失った話は、当時、そのあまりにも巨額な損失金額とともに、世間の注目を一身に浴びたものだった。
そんな、著者にその経験談、懺悔録を書かせたのだから、本書の編集者の手腕は大変なものだ。
106億とまではいかなくとも、博打で首が回らなくなったという経験をした人は少なからずいるだろうから、著者がはまり込んだカジノという魔窟の魔力とその恐ろしさは、そのスケールは小さいにせよ、理解できる人は多いのではないだろうか。
「有る金で博打をしている内は、博打の本当のスリルは味わえない」といわれる。
サラ金から借金をして、あるいは呑み屋をとおして「無い金」を賭けた時こそ、博打のヒリヒリするほどのスリルが味わえるし、一旦、その味を覚えてしまうと、その無間地獄から中々抜け出せなくなる―――という話を聞いたことがあるが――――。
106億円というとてつもないスケールの無間地獄にはまり込んだ人の体験談だけに、同じようなヒリヒリ感は伝わってくる。
但し、反省を込めて書いているとはいいつつ、女性芸能人との派手な交際のことやら、自分が社長として大王製紙をいかに立て直したか、といった自慢話と同じ調子で、カジノでの失敗を語る著者の口調はなんとなく自慢話めいたところもあり、「この人はシャバに出てきたら(現在、会社法違反で収監中)、又、いつかカジノに行き、大博打をうちそうだなぁ〜」という予感がしないではない。
本書は、「反省していない人の反省記」なのかもしれない。
(13年11月発行)