〈科学ブーム〉の構造 五島綾子 みすず書房
138億年前にこの宇宙がどのように始まったのか、遺伝子DNAを構成する4つの塩基が生命をつなぐ基本になっていること等々、現代科学はこの世界の仕組みをこんなにまで解明したのかと驚かされるほどに発展を続けているともいえる。
しかし、その一方では、「科学」だとか「先端医学」に名を借りた結局は呪いとさほど変わらない似非科学が堂々とまかり通り、時にはそういった「信仰」でしかないようなインチキ科学が世の中を動かすようなブームとなることもある。
結局そういったインチキ科学の多くは、ブームが去って忘れられていくのだが、こういったブームとその消長を幾つもみていると、現代科学といったところで、原始の時代の呪いと大差ないのではないのかと思うこともある。
例えば、最近のSTAP細胞騒ぎにしても、結局あれは、呪い同様の似非科学に理研という日本一の研究機関や、日本の科学行政がまんまと乗せられた（あるいは、分かっていながら、故意に乗った）科学ブームの一つだったのかもしれないが、何千人という研究者がそういった呪いに血眼になり、何千億円もの予算が注ぎ込まれていることを考えれば、これを笑い話で済ませる訳にもいかないような気がしないではない。
本書は、そんな科学ブームや、科学神話が生まれる構造を探ろうという一冊だが、その好例として1950年代を中心としてブームとなった有機合成農薬の一種であるDDT、そして、1990年から2000年代にかけてブームとなったナノテクノロジーを取り上げている。
いずれも、あれほどの騒ぎとなり、あれだけのブームとなりながら、結局、DDTもナノテクノロジーも何を残したのか（DDTの場合、そのアンチとして起きたレイチェル・カーソンの「沈黙の春」というカウンター科学ブームの大騒ぎの後遺症が、今も世界を動かしているといってもよいかもしれないが））
DDTやナノテクノロジーばかりではない、ダイオキシン、環境ホルモン等々、今も、一体何だったのだろうと思えるような大きなブームがあったことを思い出す。
科学と名がつけば、盲目的に信用する大衆がいて、それと同じレベルで国の科学政策が決定され予算が使われていく---今こそ、我々は、科学は、あくまでも我々より良いが社会を作るための「手段」であって、科学そのものが「目的」となってしまっている現状を根本から考え直すべきなのかもしれない。
(14年6月発行)