「健康第一」は間違っている 名郷直樹 筑摩書房
「健康の為なら死んでもいい！」という、健康ブーム、健康オタクを揶揄する笑い話があったが、これが決して笑い話ではないところまで、健康志向、長寿志向が進んでいる。
多くの人が実は、長寿だとか健康ということだけが目的化され過ぎて、その為に失われるものがあるのではないか、と感じていながらも、本書のタイトルのようなことを広言することははばかられる、というのが現実だ。本音で健康や長寿の意義を問い直すという意味からも、今の健康第一主義はおかしいという主張はもっとどんどんされてよいと思う。
どうしたら健康になれるか、どうしたら長寿になれるか、という類の本は巷にあふれていて、近藤誠医師のような「ガンは何もするな」とか、あるいは末期治療の無用性に関する本は数少ないが、著者は、そのいずれもが、結局は、「人は死ぬ」という点に関する考え方を忘れ、「死ぬことは悪」という考え方から出た同じ物の両面ではないかという。
本書は、具体的に、様々な健康情報や医療データを基に、いわゆる生活習慣病の治療と予防の現状を問い直し、健康や長寿を絶対的な善と規定する余りに、そこなわれている「生活」「人生」があるのでないか、と問いかける。
データは詳細であり、医学により利益を得ている学会、医師、薬学会、製薬会社、への疑問点も的確だ。
中でも、ガン検診中でも乳ガン検診、前立腺ガン検診の問題点、高血圧予防や治療、糖尿病予防や治療、と称して行われる大量の薬物投与の無駄などについての記述は、国家ぐるみ、医学界ぐるみの詐欺的な仕組みに対する告発として大いに胸のすくものである。（残念ながら、著者のこういった意見が、大勢となる可能性は限りなくゼロに近いが）
例えば健康や長寿という「欲望」を遂げるためには例えば「酒を飲みたい」という欲望を抑えることが望ましいといわれている。しかし、その両方の欲望が同時に遂げられないことは明らかでそうなると、世の中には、「糖質ゼロ」「プリン体ゼロ」というビールやら酒が売り出され人気を博すようなことが起きる。
糖質ゼロ、プリン体ゼロが果たして健康や長寿にどれだけ「良いのか悪いのか」は、まったく実証もされていないことを思うと―――いかに我々が、健康志向、長寿志向にとりつかれているのかが分かるような気がする。
(14年8月発行)