フライド・グリーン・トマト ファニー・フラッグ 二見書房
アメリカの最深部、ディープサウスといわれるアメリカ南部のアラバマを舞台に展開するこの物語は、我々が知るカリフォルニアだとかニューヨークなどが代表する「アメリカ」とは、全く異なるもう一つのアメリカの物語として中々心に残る物語である
。
小説は、そんなアラバマを舞台にした2つの時代にわたる物語として展開する。
時は1985年、エヴリンは更年期にさしかかった40代の専業主婦。どうしても食欲が抑えられず太る一方の彼女は、そんな自分に全く自信が持てない。
夫との生活も倦怠気味、夫とともに毎週、義母が暮らす老人施設を嫌々訪問するのだが、彼女を嫌う義母との会話も成り立たないのでいつも、談話室で時間を潰している。
エヴリンは、毎回、その談話室でこの施設に住むニニーという老女が話す不思議な昔話とに魅入られ、その魅力的なエヴリンの話と、心温まる励ましに、ニニーは、徐々にこの施設を訪れることが楽しみになっていく――。
ニニーが語るのは、50年ほどまえの1930年頃、彼女の一家が経営していた町唯一のカフェ、ホイッスル・ストップ・カフェを取り巻く人々の物語だ。
ホイッスル・ストップはアラバマ州の小さな田舎町、当時、敬虔で純朴なプロテスタント人々もいれば、大恐慌の影響を受けて流れてきた者、あるいは差別をうけながらも純朴に暮らす奴隷の末裔である黒人もいれば、日頃は保安官などをしていながらもKKKの一員でもある者なども典型的な古き良き時代のアラバマの田舎町に住む人々に起きるいくつかの物語が、その当時のコミュニティー新聞の記事の形を取り、あるいはニニーの思い出話として語られる。
その物語の中には恋愛あり、黒人差別あり、あるいは殺人事件や、同性愛と言った問題までまさに、「オールドアメリカ」を忍ぶストーリーに溢れている。
1980年代に、幾度かアラバマ州のモービルを仕事で訪れたことがあり、あの頃のアラバマの雰囲気を思い出しながら読み進めたこともあって、久々にアメリカ現代小説を読んだ！という満足感を得た1冊だった。
モービルの空港のレンタカーオフィスでは、日本人だと分かるとだれもが露骨に嫌な顔をしていたことなど思い出す。確かに、あの頃のアラバマは本書に描かれたような、まさに、白人の為の「古き良きアメリカ」だったのだろう。
もちろん、日本人にはわからない世界だけに、却って、ここで描かれた世界に興味がもてたのかもしれないが。
（92年5月発行）