中国＝文化と思想 林悟堂 講談社学術文庫
林悟堂は1895年生まれ。1935年に彼がパール・バックに勧められて英語で書いた本書’My Country and My People’は、欧米人にとって当時、余りに文化や習俗的な違いが大きすぎて中々理解できなかった、中国人、そして中国文化が、どのようなものであるのか、を紹介した傑作としてたちまちベストセラーとなった1冊であり、ここに書かれた中国文化論は、出版から80年近くたった今も包括的中国文化論としてその価値はいささかも錆びついていない。
もちろん、80年間に中国にも大きな変化があった。政治体制、芸術の劣化（？）、経済的な豊かさといったものだが、中国人の物の考え方、人生観といったものは、我々日本人のそれと、奈良時代、あるいは江戸、明治時代のそれと大きく変わらないのと同じなのかもしれない。。
ここに述べられている中国、そして中国人に関するトピックは実に多岐にわたる。それは、まず中国人の物の考え方、人生観、といったものから始まり、そのような中国人の物の考え方、生き方を生んだ歴史的背景、風土の解説、又、それらの背景を基に築かれた中国の芸術、教育、文学、政治、教育などの特徴や欠陥などに及ぶ。
これだけ、多岐にわたる文化論を縦横無尽に語ることができるのは、中国の古典ばかりではなく、広く世界の文化、芸術に払暁した林悟堂の驚くばかりの博覧強記ぶりが、背景にあるのだが、それでいて、その根底には林悟堂自身の、祖国中国の文化や歴史に対する深い愛情が感じられる。
本書が書かれた当時、国民党政府の中では、清朝までの歴代王朝の官僚たちの腐敗体質が顕在化しつつあり、又、そういった中国的な風土から育った共産党勢力にも、そのような腐敗体質が見られるようになっていた。そういう背景があるだけに、林悟堂のこういった体質にどうしても陥ってしまう中国的な物の見方に対する批判の目は、鋭く、又、時にはかなり皮肉を含んでいるが、今現在の中国の政治情勢をみるにつけ、林悟堂が今から80年前に喝破した「中国とは、中国人とは」という指摘が、今もまったく変わっていないことに驚くばかりだ。
(99年7月発行)