地球温暖化とのつきあいかた 杉山大志 ウェッジ
最先端科学をもってしても未だに、天気予報や地震予知の確度は決して高いとはいえないが、それでも人々は天気予報が「明日は雨」という予報であれば、出かける際には傘を持つだろうし洗濯を控えたりするのは、やはり、そういった予報者がバックグラウンドとして持つ「科学性」に信頼性を置いている（置かされている）からだろう。
「地球温暖化」についても同じようなことが言えるのではないだろうか。地球温暖化は人間活動による二酸化炭素排出量の異常な伸びに起因する、とか、この調子で温暖化が進めば太平洋の島々は水没し、生物種の多くが絶滅し、漁業も農業も壊滅的な打撃を受けるだろう―――というご宣託に人々が戦々恐々とするのは、やはりそれらのデータは科学的な裏付けに基づいているのだから---という科学に対する信頼があるからだ。
地球温暖化に関する科学的裏付けとして圧倒的な権威をもっているのが、国連の気候変動に関する政府間パネル（IPCC）だが、このIPCCの第5次評価第3作業部会の統括執筆責任者として報告の取りまとめに当たった温暖化問題の専門家である著者は、このIPCC報告書は、決してそのような結論を述べている訳ではないという。
確かに、IPCCの報告書を詳細に読んだ訳ではないし（おそらく、詳細に読んだ人などほとんどいないと言ってよいだろう）、結局は、ある種のバイアスのかかったマスコミなどによるつまみ食い的な、サマリー（要約）を鵜呑みにしていただけなのかもしれないだけに、執筆陣の一人による、本書の指摘には、驚かされたし、目からウロコ的な衝撃を受けた。
様々な指摘があるが、もっとも驚いたし、いわれてみれば「なるほどなぁ〜」とおもったのは、著者は、巷間いわれるような「平均気温の2度から3度の上昇が、地球規模のカタストロフィーを起こす」ということは「あり得ない」という立場であることだ。
著者によれば、そもそも、地球温暖化は差し迫った問題になってはいないし、「2度か3度の温暖化なら、重大な損害はないだろう」という。IPCCの報告書も、あくまでも「カタストロフィーが起きる」といった結論にはなっていないというのだ。
京都議定書によるCOP4の失敗や、経済コストを全く無視したCO2ゼロ作戦の愚かさなど、IPCC報告書の内容を換骨奪胎した上で、政治的にあるいは経済的に利用しよとしている人たちへの批判を含めて、本書の内容は実に衝撃的だ。
IPCCのパネルの一員であるにもかかわらず、著者がマスコミで大きくとりあげられることすらない、というところにこそ、なんだか「温暖化ビジネス」勢力の、恐ろしい圧力を感じる。
(14年9月発行)