江戸学講座 山本博文 PHP文庫
400年も500年も前のこととなるとさすがに馴染をかんじないけれど、わずか200年程前と言われれば、自分の曽祖父あるいはその父母や曽祖父が生きていた時代ということになるのだから、満更自分とは無縁の世界という訳でもなく、むしろ、割と近いはずの時代ともいえるのだが、我々はその時代の人々の暮らしぶりを知らない。それはそうだ、わずか70年前の戦争の時代の人々の暮らしがどうであったかですら、今やそれを語れる人はほんの一握りになってしまっているのだから－－－。
割と親近感はあるのだが、ほとんど知らない時代でもある江戸時代とは一体どんな時代だったのか、その時代に生きた我々の父祖たちはどんな暮らしをしていたのかを知りたいという我々の欲求が強いからだろうか、今、巷では江戸学、江戸研究が盛んだ。
江戸研究でおなじみの著者が、宮部みゆき、逢坂剛、といった作家の求める小説のネタ的な江戸時代についての含蓄を語る、という本書は、我々自身の、「ほんの少し前、我々の父祖の時代のことを知りたい」という欲求を満たしてくれる。
大奥女中は現代でいうならば、女子アナのような憧れの職業であったこと、しかし、同僚たちへの贈りものや、自らの衣装代には実家からの仕送りが欠かせなかったこと等の薀蓄や、数少ない役職を得る為に、武士たちが、如何に有力者に夜討ち朝駆けといった涙ぐましい働きかけをしたかなど、現代と余り変わらない江戸時代の人々の生き様を知れば、益々、自分たちの父祖に対する愛情と親しみを感じてる。やはり江戸学は面白い。
（07年3月発行）