粘菌 中垣俊之 文芸春秋
地球上の生命は大きく分けると植物と動物に分けられるが、その他にもラン藻類のような原核生物、あるいはカビなどのような真核生物、あるいはバクテリアなどの菌類といった動物とも植物とも言えない生命体に分類されるものがあるが、粘菌は、今現在は菌類の一つに分類する説があるものの、そうとも言いきれないなんとも不思議な生命体である。
本書の副題に「偉大なる単細胞が人類を救う」とあるが、粘菌は基本的には単細胞生物であるものの、細胞膜がないという意味では「単細胞生物」とも言えないし、ときには子実体となりその時は多細胞生物的な振る舞いをするというなんとも変な生物である。
そんな、原始的かつヘンテコな生物である粘菌は、日本でも古くから南方熊楠の研究が有名だが、近年再び注目を浴びるようになったのは、著者たちが、脳も神経もない粘菌が迷路をいとも簡単に解くなどの賢さをもっている、という研究で「イグ・ノーベル賞」を二回も受賞したことにもよる。
粘菌をもっと広く人々に知ってもらいたいという著者の願いから書かれた本書は、まず、「笑いを取らなければいけない」という条件が課せられているイグ・ノーベル賞受賞式の顛末などに始まり、粘菌とはそもそもどのような生物であるのかを語り、さらには、知性とはどのような自然節理から生まれるものなのだろうかといった著者なりの仮説、さらには、数十億年を生き抜いてきたしかも賢い粘菌から、我々人間が学ぶべきこと、さらにそれを演繹した「粘菌から学ぶ教育論」に至るまで、中々、読みごたえのある一冊だ。
（14年10月発行）