きょうのできごと 柴崎友香 河出書房新社
70年代に観た「アメリカングラフィティー」は今も強く印象に残っている自分にとっての思い出の名画だ。
1962年、カリフォルニアのある小さな田舎町、高校を卒業しそれぞれの道に進むために明日には別れ別れになる4人の若者たちが過ごした最後の一夜を描いた物語は、それ以降のいわゆる「青春グラフィティー物」のバイブルともなった作品でもあるのだが、本書「きょうのできごと」を読んで、まず、思い出したのがこの映画だった。
友人の引っ越し祝いに集まった5人の若者のそれぞれの視点で描かれた物語の中では、これといった大きな出来事も物語といえるほどのものもあるわけではない。ただ、ある一日に、ある場所に集まった、5人の若者たちが、何を思い、どういう思いでこの場に集まり、そして何を考えたのかが淡々と述べられる。
ある意味では、さほどの出来事もなかった日の、5人の若者の日記ブログを読んでいるような物語なのだが、全編会話分が関西弁であることで、なんとなくほんわりとした物語になり、関西弁が醸し出すユーモアのある雰囲気も、今時の若者たちの青春グラフィティーとしてピッタリだし、また、それが去りゆく青春の一瞬に対する彼等の哀愁を醸し出してもいるように思う。中々、巧妙なテクニックだと思う。
あの青春の一夜の出来事を、まるで線香花火の一瞬の輝きのように捉えた「アメリカングラフィティー」の持つ、なんともいえず不思議な魅力を日本の現代に置き換えたらこんな物語になるのでは―――という印象は、自分にとっては中々の快感だった。
この作品は、作者が26歳であった00年に書いたデビュー作だというが、そのユニークさと作品としての完成度には、ちょっと驚かされる。
作者は昨秋、芥川賞を受賞しているというからその受賞作は是非読んでみたいと思うし、又、最近、この「きょうのできごと」の続編を発表したということなのでこれも是非読んでみたいと思う。
「アメリカングラフィティー」ではエンドロールで、この一夜からわずか数年後に、一人は車に轢かれて、もう一人はベトナム戦争で亡くなったことが流れ、あの一夜の輝きが、彼等にとって実に一瞬のものであったことの無常観が印象付けられるのだが、そんな意味を含めて続編「きょうのできごと 十年後」が楽しみだ。
(04年3月発行)