これが本当の「忠臣蔵」 山本博文 小学館
ストーリーが分かっていながら繰り返し、繰り返し上演されるといえば、シェークスピアの例えば「ハムレット」のような物語だが、それに相当するものといえば、日本では「忠臣蔵」は外せない。
歌舞伎界でも「仮名手本忠臣蔵」は、「独参湯」という効果てき面の気付け薬の名で呼ばれる鉄板の演目だという。
もっとも、自分が子供の時代には、毎年12月の討ち入りの時期になると映画で必ずといってよいほど、「赤穂浪士」とか「忠臣蔵」という題名で、時の人気俳優(錦之助とか千恵蔵といった）主演の映画が上演され、同級生たちと連れだって必ず観に行ったものだったが－－－さすがに最近の子供たちは、そういったこともないようなだけに、孫の世代が「日本人の心」を失ってしまいそうでちょっと心配（？）だ。
テレビなどで、江戸学を分かり易く解説してくれている著者が、「忠臣蔵」すなわち、元禄時代をゆるがせた赤穂浪士の吉良邸討ち入り事件の「芝居において作られた部分」と「歴史的な事実」を多くの資料などをもとに対比させて解説した本書は、あらためてあの「忠臣蔵」の面白さをおもいださせてくれた。
なぜ、浅野内匠頭は殿中松の廊下で吉良上野介に刃傷に及んだのかについても、芝居では、賄賂を要求する吉良の嫌がらせにプライドを傷つけられたから、ということになっているが、事実としては、内匠頭が吉良に対して贈るべき礼金をケチった可能性とか、元々、内匠頭は乱心傾向にあったからといったことも資料などから全く芝居とはことなる「事件の真相」が、うかがえるのだ―――次から次への繰り出される「忠臣蔵裏話」は実に興味深い。
若い世代に再び「日本人の心」に興味をもってもらうための入門書としては絶好の一冊だと思う。
(12年4月発行)