ふたりの証拠 アゴタ・クリストフ 早川書房
昨年日本でも公開された映画「悪童物語」は、ハンガリー出身で56年にフランスへ亡命し、2011年に亡くなったアゴタ・クリストフの三部作の第一作であったが、本書はその「悪童物語」の続編であり、三部作の第二巻に当たる作品だ。（参照：「悪童物語」）
前作のラストでは、双子の一人であるクラウスは地雷が埋まる国境を越え、外国へ脱出、もう一人のリュカは故国に残ったところで終わっていたが、この続編はリュカを主人公に彼の過ごした23歳頃までの物語である。
リュカは父親による近親相姦の結果、障害のある子供を抱えることになった少女ヤスミーヌと出会い、彼女とその赤ん坊であるマティアスと暮らし始める。おそらく、ソ連支配下のハンガリーの国境の村がモデルであろうと思われるリュカの村には、外国の軍隊による圧政が続いており、この第二部においても登場人物は、ヤスミーヌやマティアスに加え、同性愛者である共産党幹部のペテール、リュカが心を寄せる、反政府勢力であった夫を虐殺された司書書クララ、同じ妻を殺され不眠症となったミカエル、アルコール中毒の為に姉を殺してしまうヴィクトールなど、皆その圧政下で苦悩や困難を抱えた人たちばかりが描かれており、前作に漂っていたハードボイルドで、乾ききった雰囲気は変わらない。
アゴタ・クリストフにとって母国語ではないフランス語で書かれているという理由もあるからだろうが、文章は感情などを一切描かない、極めてドライな文体を使っていることもあって、この作品にも前作同様、なんとも言えない不気味さが漂っており、この続編、三部作最終巻への期待度は益々高まる。
（01年11月発行）