シャドウ 道尾秀介 東京創元社
ミステリー作品は、ストーリーの中にどれだけ読者を驚かせる「どんでん返し」を仕組めるかが勝負と言ってよいところがある。
しかし、最近は、読者の方もちょっとやそっとの仕掛けでは満足しなくなっていることもあって、作者の方もその仕掛けは複雑、大がかりにするとか、一度だけではなく作品中に二度も三度もどんでん返しを仕組むといった工夫をするようになっているが、今度は余りに意外度が高すぎるとリアルさに欠け、本格ミステリー好き読者からはそっぽを向かれるようなことになるだけに、その辺りが最近のミステリー作家にとっては頭の痛いところなのではないだろうか。
第７回本格ミステリー大賞受賞作であるこの作品も、なまじ「本格ミステリー」と名打っているだけに、どんでん返しの意外性と、リアルさ、という背反する課題を両立させるのにかなり苦労しているようだ。
小学5年生凰介は母をガンで亡くすが、その直後、鳳介の同級生亜紀の母親も父のつとめる研究所の屋上から飛び降りて自殺してしまう。
実は、鳳介と亜紀の両親同士も皆、大学の同級生だった。鳳介と亜紀の父親もそれぞれ不可解な行動があって―――と、出だしから中々快調なストーリー展開であり、謎が謎を呼んで―――とミステリーの王道を行くような何重もの仕掛けが撒かれ、どんでん返しが二度、三度と仕込まれていて―――というのだから―――たしかにミステリー大賞作というだけあるなぁ〜と思わせるものはあるが---。
敢えて、難をいえば、やはり仕掛けの種明かし部分に、「精神病」をもってきてしまったところが、なんとなく禁じ手を使ってしまったのではないかと読者に「なあんだ〜」と思わせるものがあり、主人公が小学5年生という意外性はよいが、小学生らしからぬスーパーマン的な部分にも、作者があまりに意外性にこだわる余りに背伸びしすぎてしまったようなぎこちなさを感じてしまった。
そういう意味では、最近読んだ「インパルス」の板倉俊之の「蟻地獄」のように、最初から「本格」にこだわらない、劇画調のミステリーの方が、却ってミステリーとしては王道なのではないか---ともおもえてしまったのだが。
(09年8月発行)