反グローバリズムの克服 矢代尚宏 新潮社
かつての東西冷戦は、基本的には社会主義体制対自由主義体制の対立であったが、韓国と北朝鮮、かつての東西ドイツの例をみるまでもなく、反市場主義経済である社会主義体制は、市場主義経済に完全に敗北した。市場主義体制が圧倒的に優れていることは既に実証済みである。
すなわち人類の近代史は、「市場経済を活用している国は発展し、そうでない国は停滞する」ことを実証しており、そのことに異議をはさむ余地はない－－－と著者はいう。
それでは、この「市場」を一国とか一地域といった狭い範囲に限定しないで世界全体を一つの市場とする、「市場主義経済の究極の姿」であるはずの経済のグローバル化に対して、なぜさまざまな反グローバリズムの声が上がるのだろうか。
例えば、豊かな国が、貧しい国の産品を購入することにより、豊かな国の人々がより安価な物品を購入できて、貧しい国の人々が仕事を得て収入を増やすことができるのなら、世界にとって「よいこと」であるにも関わらず、なぜ豊かな国は輸入制限をしようとし、貧しい国では、豊かな国によって「支配される」と「反グローバリズム」の声が上がるのだろうか。
著者は、反グローバリズムとは、既得権益者たちが利己的な自己権益を守ろうとして、オブラートにくるんだ毒薬であり、詐欺的な論法であり、同調者の多くは、偏狭なナショナリズムに盲目的に支配されている者たちだとその論旨はきわめて明快で手厳しい。
例えば、減反と異常に高い関税によって長年守られてきた日本のコメ生産がもう取り返しのつかないほどに脆弱になってしまったのに対して、何の保護もなかった日本の野菜は、高収益産品となり一部では輸出商品にまでなっていることを例に挙げ、至上主義経済に委ねることによって、日本の農業はより強い産業になり得ると主張する。
TPPの無関税化によって日本のコメの価格が下がってしまうことで利益を失うのは、日本にほんの少しだけしかいない兼業コメ農家だが、コメ価格が下がることによって利益を得るのは残りの99%に近い、日本のコメ消費者と、東南アジアなどのコメ農家といった圧倒的多数である―――という著者の単純な算数計算に、反論できる者はさほど多くはないと思うのだが－－－。
反グローバリズムという反自由主義に対する著者の舌鋒はするどく、明快である。
(14年10月発行)