嫌われる勇気 岸見一郎・古賀史健 ダイヤモンド社
そもそも人間心理学とはどういう学問か？となると、そうそう一筋縄では説明しきれない学問（？）ということにもなるかもしれない。
「人の心の働きと、その行動の間の相互作用を探求する学問」ということだと同定したところで、人の行動を一々、どういう心理に基づいておこなわれたのかとか、逆にこういう心の働きがこういう行動に表れているのだ、等と結論づけても確かに納得できるところはあるにしても、化学反応式のように目に見える形で実証することが難しいだけにどうしても「どうも詐欺的な論法で丸め込まれた感じ」が残るのではないだろうか。
心理学の巨頭といわれるフロイトやユングの理論、例えばフロイトの夢判断にしてもなんでも性的欲望にその原因を決めつけてしまうかの理論には批判も多いし今のところ「確かに、当てはまる部分はあるが、必ずしも理論全体が肯定されているわけではない！」というのが現状であることからも「心理学」そのものの学問性に疑問符がつけられがちな所以である。
フロイト、ユングに並ぶ、心理学の三大巨頭の一人であるアドラーの心理学とはいかなるものかを、アドラー心理学研究者と、それに対して懐疑的な青年との対話という形式で説明する本書を読んでみて、やはり冒頭のような疑問、すなわちそもそも心理学とは何か？という疑問に行きあたったし、アドラー流の心理学の目的が「どうすれば人は幸せに生きることができるか」であるという点などを知るにつけて、これはもう、心理学という衣を着た一種の宗教に近い「ご宣託」にちかいのではないか？という気がしないでもなかった。
但し、アドラー流の人生観（彼がいうところの心理学）の多くの部分が、悩み多き人々に対して「なるほど、そう考えればよいのか！」と納得させるものである点で、アドラー心理学が一種の「人生啓発書」として人気がある理由であることは理解できた。
アドラー心理学の根本にあるのは、「嫌がるロバを水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざにあるように、人のすべての行動は、その人自身の心理によって決定づけられている以上、自分の心理が一体どのように形成されているのかを常に冷静に知っておくことが、その人の「しあわせ」につながるのだ―――という極めて当たり前？の考え方なのだが――――なるほど！と納得しつつ、同時に、なんとなく「だまさている」感覚をぬぐいさることができない。
やはり「心理学」そのものがインチキ臭いと思っているからだろうか？
(13年12月発行)