麒麟の舌を持つ男 田中経一 幻冬舎
テレビ番組「料理の鉄人」などの演出を手掛けていたという前歴をもつ作家によるミステリー小説だ。
得意分野である料理を題材にしたエンターテイメント小説というちょっと変わった趣向の狙いは確かにユニークだが、「味」という中々文字で表現しにくい物を題材にして「新機軸を打ち出す」という思いが著者にあったとしたら、正直言ってそれはあまり成功しているとはいえない。
人が思い描く思い出の料理を再現できる能力「麒麟の舌」を持つ料理人、主人公佐々木充は、ある時、謎の中国人・楊に呼び出され、高額な報酬と引き換えに、第二次世界大戦中、日本軍の特命を受けた天才宮廷料理人・山形直太朗が心血を注いで完成させた究極の料理「大日本帝国食菜全席」のレシピを再現して欲しいという依頼をうける。
「大日本帝国食菜全席」は、中国宮廷料理である満漢全席を超える世界一の料理をめざすものであり、満州国建国の際に天皇を迎えて行われる祝賀の祝いに供される予定の料理だというのだが---
ストーリーは、満州国建国時の世界情勢、関東軍の暗躍といった時代背景と、同時並行で進められる山形直太朗と中国人助手・楊との必死のレセピ作り、友情の物語などを織り込みつつ勧められ、そのミステリーは、「大日本帝国食菜全席」に秘められた、満州国の存在をも揺るがす、恐るべき陰謀とは―――といった形で進行するのだが―――。
なんだか、わざわざ、これらの大げさな陰謀話と、料理のレセピとを組み合わせる必要があったのか―――という思いがぬぐえないのだ。
400頁弱の紙数を使った割には、プロット全体がちょっとチャチな感じがするし、正直いって読了後には、軽いガッカリ感（なあんだ〜といった）もある。
特に「麒麟の舌」というなんだか興味津々の舌を持つ主人公という設定が、ストーリーの中で、ほとんど、なんの役にも立っていないガッカリさは、残念この上ないのだが－－－。
(14年6月発行)