愚民文明の暴走 呉智英/適菜収 講談社
漢字にはフリガナを振らないと読めなかった元漫才師が知事を務め、結局セクハラで辞任したことがあったけれど、「本当にこんな政治でよいのか！」と嘆く声はきかれたものの、この知事も選挙で民主的に選ばれたことを考えれば「ダメな政治」の責任はすべて選挙民にあるということになる―――。
とは言え、「だから民主主義は、衆愚政治なのだ」等と言えば、「鼻持ちならないエリート意識の塊！」などといった大ブーイングを受けるだろうから、大半の人は黙っているということになるし、そうなると、結局、何年か後には、又、同じ事が繰り返される、ということにもなる。
批判とか批評というものは、相対的に自らの価値判断を上、相手を下、とみるようなところがある以上、どうしても「エラソーに！」といった反発を生みがちだ。そんな誹りを受けたくないと思えば、まあ、黙っているのが一番無難というものだが－－－。
本書の対談者、二人は自らの「あふれる知識と教養」故に、世の中のすべてが、バカに見えるし、その事を口にしないと耐えられないタイプ、まあ、一種のサドタイプということなのかもしれない。
「安倍は何もわかっていない」「橋下は気違いだ」といった辺りでまず二人の意見は一致、秘密保護法案反対デモ、自民党独裁から民主主義や人権主義の矛盾やバカバカしさに到るまで、二人の山のような（？）教養から見れば、すべてが批判の対象になるし、又、そういう批判を声高にすることで溜飲も下がるのだろう。
そんな、二人の過激ともいえる（ある意味、単に口汚くののしっているだけととれる部分も多いが）対談を読んでいる多くの「物言わぬ読者」の、多くは、二人の意見に賛同したり、あるいは更にそれに対して批判したりしている限りにおいて、更に、二人よりも「上から目線」を自己満足的にとることができるのだから－－－まあ、ちょっとしたストレス解消になるところはある。
知識量においては、二人ともさすがと思わせるものがあるようだが、余り世の中で重んじられているタイプの評論家でもないようで、その鬱屈とした不満からか、話が政治批判、特に個人名をあげての批判になると、どうも感情が先にたって、単なる悪罵になってしまい理論的ではなくなってしまうところはまだまだ二人とも未熟さを残しているような気がしないではないが。
(14年6月発行)