父という余分なもの 山極寿一 新潮社
京都大学の総長に就任した著者は、ゴリラ研究の第一人者として知られている。
本書はそんな著者が長年にわたって発表してきたゴリラを中心とした類人猿研究の著作をまとめたもので、サル達の生態から我々人類の社会、あるいは文明の起源をさぐろうというものだ。
タイトルになっている「父という余分なもの」は、本書に納められた著者の類人猿研究、あるいは動物社会学研究の論文の一つでしかなく、本書全体の統一テーマという訳ではない。
その意味では、本書のタイトルはミスリーディングなところがあり、折角の本書の価値をいささか貶めていることが残念ではある。
とはいえ、やはり本書の目玉は、動物界においては極めて珍しい「父性」というものを持ちえたからこそ、人類が、「家族」「社会」「文明」といったものを持ちえたという、著者がフィールドワークから得た結論部分にある。
息子が年老いた父からその群れ（社会）を引き継ぐことがある類人猿といえば、ゴリラと人間だけだという。
他の類人猿は、ほとんどが母系社会を形成しており、若いオスは、成長すると自分の生まれた群れを離れ、メス（娘）は、元の集団に残って、外部から来たオスと交尾して子供を産む―――といった形で群れが継承されていくが、確かに、「瀬戸の花嫁」でもそうだが、人間社会は、成長したメスは外に嫁に行き、元の島には外部から花嫁が来て、その集落（村）は継承されていく。
これは、人間のオスが父としてメスや、またそのメスが生んだ子供の保護に当たるという「父」としての働きをするからだ――というのだが－－－。
「父」という視点から考えれば、自分自身の行動も、妙に腑に落ちるところもあるし―――もう少し「父性」に関する研究を読んでみようかと思った。
（15年1月発行）