どーもの休日 近藤彰 風媒社
「42年間のサラリーマン生活が終了。やっと悠々自適と思いきや、膵臓がんが判明。余命は１年の宣告を受ける」という書き出しで始まった昭和48年生まれ、元NHK記者のガン闘病ブログは、開設からほぼ一年後、生前、自分が死んだらアップして欲しいと長女に託した第100回目のブログ「さようなら」で最終回を迎えている。
ブログの経験のなかった著者だが、長女にすすめられて「どーもの休日」というブログ名で、ガン患者やその家族などの間で徐々に読者が増えていき、多くの反響がブログに寄せられるようになったという。
著者自身、このブログが人生の終末期の自分にとってある種の生きがいとなり、励みになっていると述べてもいる。
本書はそんな闘病記ブログをまとめたものだが、突然と言ってよい末期ガンの余命宣告、そして抗がん剤治療や漢方薬、温熱療法などを試した経緯、家族との韓国旅行の思い出、死ぬまでにやりたい事の一つとして「カラオケの機械採点で98点以上を出すこと」を掲げ、それを成し遂げたこと等々、淡々と述べられている。又、患者目線でみた日本の医療現場における問題点、あるいはもはや治療方法がなくなった患者を診てくれる病院がなくなってしまうという「ガン難民」問題など、元NHK記者らしい指摘なども、社会啓発的にも価値があるとおもう。
闘病記は幾つも読んではきたが、本書は「ブログ」という読者とのキャッチボール的な要素を含むメディアを使って書かれただけあって、従来の闘病記などに比べると、全体的にはかなり明るいトーンのものになっており、時には、ユーモアさえ漂っている。
ガンになったことに対する口惜しさといった事も述べられてはいるが、むしろ、死まで1年間という期間が与えられたことは、死に方としては、そんなに悪い物ではなく、むしろラッキーな方かもしれない、といった述懐などは、著者と全く同年代である自分にとっては、なんだかしみじみかんがえさせられるところがあった。
他の闘病記に比べると、奥さんをはじめとする家族への遺言的な言及が少ないのは、やはりこれもブログという第三者向けに書かれた日記といった形をとっている所為があるのだろう。多くの闘病記は、そういった家族への言葉などがむしろ大半を占めているものもあるが、著者の場合、それは別の形で残しているのではないだろうか。
自分だったら、死に行くまでの自分を実況中継的にブログで公開していく、ということができるだろうかと思うと、著者の勇気はある意味驚異でもあるが、なんとも身につまされる闘病記である。
近藤さんのご冥福をお祈りする。
(14年10月発行)