流星ワゴン 重松清 講談社
主人公の永田一雄は、リストラされ、小遣い欲しさに死の床にある父を頻繁に訪ねる身だ。
彼の家庭は崩壊寸前、妻はテレクラで不特定多数の男と不倫を重ね、息子の広樹は、中学受験に失敗し通うようになった地元の中学でいじめに合って不登校となり、家庭内暴力をふるっている。そんな最低ともいえる状態を、一雄はてをこまねいているばかりだ。
そんなある日、父の見舞いからの帰り、一雄は一台のワゴンに乗ることになる。
ワゴンに乗っていたのは5年前に交通事故を起こして死んだ橋本義明とその息子5年生の健太だ。このワゴンで一雄が向かったのは、その日から丁度一年前、まだ、家庭崩壊が起きる前の、一雄にとっては運命の変わり目となった日々である。さらには、その重要な場面には今の一雄と同じ歳の、若き日の一雄の父である。
あの時、あの飛行機に乗りさえしなければ、あるいは間にあってさえいれば―――といった具合に人の運命は、常に分岐点にあるともいえる。では、タイムスリップしてその分岐点に戻れたとしたら、人はその未来を変えることができるのだろうか―――タイムスリップ物のストーリが常に取り上げるこの設定が、本書の肝であり、いささかマンネリ化感もあるけれど―――。
子供の世界、タイムスリップ物、といったいつもの重松清お得意のプロットを使い、泣かせ処をよくわきまえた手慣れたストーリーメイクだけに心地よく読むことができる作品で、さすがな名人芸だ。
但し、いつもの重松作品以上に、設定がちょっと荒唐無稽過ぎるところもあるし、辻褄の合わせ方も、最終的には放り投げてしまっているところも多々見受けられる。
月刊小説誌に連載された作品ということなので、どうも、流行作家のやっつけ仕事的なところが匂わないではないが---。
(02年2月発行)