哺乳類誕生 酒井仙吉 講談社
著者の専門は、動物育種繁殖学だが、その専門分野の立場から生命誕生から現在までの生物進化の壮大なドラマを新書一冊にまとめた本書は、コンパクトながら実に読み応えがあった。
本書は３部で構成されているが、まず第一部では高校生物のおさらいのようなそもそも進化とはどのようなメカニズムなのかの概説と、生命の誕生から真核生物に至り、多細胞生物の多様化、そして有性生殖というシステムが完成するまでであり、いかに進化のシステムが今の地球上の多様な生命に至ったかのドラマの序章だ。
第二部では生物の陸上への進出という大飛躍、あるいは目をはじめとする様覚器官の獲得が、生命進化に与えた影響、自然選択による適者生存のメカニズムの機微などが語られる。
第三部が本書のタイトルにもなっている著者の専門である哺乳類における乳腺と泌乳のメカニズムがどのような進化のメカニズムの集大成として生まれたかの物語であり、この部分を読むと改めて生命の神秘を感じて、なにか感動的なものを覚える。
最終章に於いて地球上のあらゆる地域に生息域を伸ばした人類が、現在に至るまでに地球環境をいかに破壊し、ネアンデルタールを含む多くの生物種を絶滅に追い込んだかを考察、将来、人類自身がどのように地球環境との調和を計れるかを語っているが、傾聴に値する。
(15年1月発行)