自然神学再考 芦名定道 晃洋書房
キリスト教思想は、神の啓示の書物であるといわれる聖書にある「この世は全知全能である神がすべて創造した」といういわゆる創世記の記述をその根本においている。
従って、人間は、神によって創造された世界を観察することによって、神の意思の痕跡をしることができ、そのことによって神の存在を知ることができる---と言うのが、キリスト教自然神学の大本になる考えかたである。（例え、聖書の記述と自然の法則の間に矛盾があるように見えても、それは人間の理解が及んでいないだけであって、神が作った自然と、聖書の記述が異なる訳がない！というのだから―――）
この自然神学の考え方は、あのニュートンのニュートン力学の発見にも強く示されている。すなわち、ニュートンは、この宇宙に万有引力の法則が成り立っていることを導きだしたことによって、「こんなにキッチリとした法則で宇宙の秩序を保つように設計した神は偉大だ！」という結論に至ったという訳だ。
我々が、神話とか寓話（あるいは与太話）としか思えない聖書の記述（啓示）が、全て、実は神の人知では中々理解できないような、自然の実に理論的な神が創造していた法則に基づいているのだ―――と考えるのだから、無神論者がいくら論戦を挑もうとも、自然神学思想に凝り固まったキリスト教徒に、「ひょっとしたら、自分たちは間違っているのかもしれない」等といった疑念を抱かせることは、不可能といえるかもしれない。
本書では、そんなキリスト教自然神学が、ギリシャ哲学、いってみればギリシャ的自然神学思想から出たものであることなどから説き起こし、ニュートン主義ともいわれる自然神学の考え方、そして18世紀からダーウィンに至るイギリス社会における、自然神学的な考え方の変遷といったものについての詳しい論考が展開されている。
又、近年とみにいわれる「母なる自然」といった考え方に根差す環境論、エコロジー問題と、自然神学的発想との宥和性についての論考も面白い。
ニュートンやアインシュタイン、あるいはダーウィンのようないわゆる「科学者」といわれる人たちが、いかに「全知全能の神」と自然界の法則との間の矛盾を克服しようと葛藤したであろうかということも、本書を読みながら色々考えさせられた。
(07年2月発行)