日本の敵 櫻井よしこ 新潮社
右にせよ左にせよ「論客」といわれる評論家が極端に少なくなっているような気がしてならない。
特に左になると、論客というよりは朝日新聞による慰安婦強制連行という捏造虚報に対するまともな批判すらできず論点のすり替えに加担するだけならまだしも、だんまりを決め込むいわゆる「リベラル派」ばかりでは、これはもう単なる左翼カルトとしか言えず、彼等のいうことまともな評論として、全てが全く信用できなくなってしまっている。
一方、一時期、吹き荒れた朝日流の平和主義に名を借りた反日プロパガンダ的な雰囲気に抵抗しつづけていた保守派にとっては、今こそが、この左翼カルトを追及しまともなリベラル論客を育てる土壌を培うために手を貸してよい時だと思うが、かつての江藤淳や岡崎久彦のような頑とした理論派が少なく、しばしの間、首をすくめている朝日に対する追及も湿りがちで、力不足の感がぬぐえない。
そういう意味ではかつて「論壇」といわれた旺盛な論争の場が、それこそ「朝まで生テレビ」や「TVタックル」のようなエンターテイメント化された場だけになってしまっているという日本の評論土壌の砂漠化が大きくかかわっているような気がしてならない。
本書の著者、櫻井よしこも、メディア出身という意味で、かならずしもかつての論壇の人物に比べれば信用が高い訳ではないが、男性陣の論客の力不足ということもあるからだろうか、中々信用度の高い保守派評論家といってよい。
本書は、彼女が週刊新潮に連載している「日本ルネッサンス」というコラムを加筆訂正してまとめたものであり、現時点で読むと、トピック性にいささか劣る点が難点ではあるが、現在の保守派論客の主張のエッセンスがまとめられているという意味合いでは中々読み応えがある。
見境なくかみつく狂犬にも似た中韓の反日行動にいかに対処すべきか、弱腰が過ぎて中東をはじめ世界中に混乱を招いてしまっているオバマのアメリカに対して日本はどうしていくべきかなどの議論、朝日新聞の居直りに対する怒り、北朝鮮問題をどうするべきなのか等々、中々舌鋒は鋭く、ある意味小気味よさがある。
捏造記事を書いて日本と日本人の名誉を取り返しのつかないほどに傷つけた張本人である元朝日の植村記者が、被害者顔をして居直り、朝日新聞は自らが傷つけた日本人への誤解を解くような行動を一切とっていない現状を見ていると、著者の怒りが、ごまめの歯ぎしりのようにしか映らない現状が、やはり歯がゆくてならないが---。
著者には今後も頑張って欲しいが、さらなる強力な新たな保守論客出でよ！とも思う。
（15年3月発行）