国際情勢判断・半世紀 岡崎久彦 育鵬社
昨年10月に亡くなった保守派の論客、岡崎久彦が亡くなる半年前に、読売新聞に連載したその半生記を病床で大幅に加筆訂正したのが本書だ。前半はその半生記、それに加えて彼の代表的な論文、更には関係者からの追悼文などを加えて編まれた一冊。
岡崎久彦は今の御殿山ヒルズのあたりにあった裕福な家庭の大邸宅で生まれ幼少の頃より天下の大秀才としてその名をとどろかせ、小学校から、常に学年トップの成績で府立高校から東大法学部に進学し在学中に外交官試験を突破して外務省に入省という典型的な外務官僚超エリートコースを歩んだ人物だ。
しかし、才が走った人物にありがちな、余りに「理」が勝ちすぎたということもあったようで、自らの信念に忠実である余り、回りや時の権力者たちともぶつかることも多く、入省後は必ずしも出世コースを歩んだ訳ではない。
秀才にありがちな、「バカに合わせることができるか！」といった性格が出世には向かなかったのだろう。
特に、中国との国交回復交渉においてそれまで関係のあった台湾を切り捨ててまで、中国に迎合しようとした当時の政治家や外務省主流の外交路線には我慢がならなかったようで、日中国交を推進した橋本恕中国課長とは新橋でも赤坂でもいたるところで大喧嘩していたというエピソードは有名だし、また、当時のそういった「悪評」が、後年、彼が、保守派の外交戦略の中心的論客として活躍した素地を予感させるものがある。
駐サウジアラビア大使、そして駐タイ大使という必ずしも外務エリートとしての本流出世街道を歩いた訳ではないが、その時々において、情報収集や外交人脈作りには独特の才能を見せ、彼の情勢判断に信頼を寄せる政治家もそれなりにいたことは事実だ。
彼が外務省を離れて評論家生活をしていた時代、幾度か彼の国際情勢評論の講演を聴いたことがあるが、理路整然としているが故にいささか難解であったことを思い出す。
早くから今、論戦になっている集団的自衛権行使に関する提言を行っており、岡崎が当時言っていたことが現在、安倍政権がすすめようとしている安保法制の土台のところにあるように思う。
その生涯を通して変わらなかった彼の「日本の国のため」という信念に基づく、主張に対しては毀誉褒貶あるのは当然ではあるが、「余りに融通が利かない」ともいわれるほどの憂国の情から発する正論には、一種の清々しささを感じるのもまた事実である。
(15年4月発行)