宿命の子 高山文彦 小学館
戦前には右翼「日本国粋党」の党首、戦後は(志願して)A級戦犯として巣鴨プリズンに入り、さらには競艇のドンとして君臨し続けた笹川良一は、その様々な社会事業などの貢献にもかかわらず常に「怪物」あるいは「稀代の梟雄」としての得体の知れなさを持ち続けた人物であり、佐藤誠三郎が「笹川良一研究」でその伝記を著した時には、あまりに世間一般が持つ彼のイメージと描かれた人物像が違うこともあって大きな衝撃を与えたものだった。
本書は笹川良一と、その三男として生まれ父の起こした慈善事業、社会活動をさらに広めた笹川陽平の二代に亘る伝記である。
前半部分の笹川良一についても、ある意味では英雄もしくはピカレスク物的な面白さはあるが、その大筋において佐藤誠三郎の著書で描かれてもいるからさほど驚きはなかったが、後半の笹川陽平の半生記は、彼自身が一般にはさほど名前が知られている訳でもないこともあって非常に面白かった。
笹川陽平のイメージとしては、良一の残した競艇というギャンブル資金源の世襲に成功し、その資金（いってみれば、ギャンブルのカスリ）をばら撒くことによって社会事業、社会貢献に務めている―――という良一同様の「得体の知れなさ」が漂う人物だったが、本書では佐藤誠三郎が良一を描いたのと同様に、陽平は世間一般でもたれているようなネガティブなイメージの人物ではなく、まったくと言ってよいほど無私の慈善家として描いており、「おいおい、ホントかよ？」と思わせるところが実に多く、正直、読後も眉唾感はぬぐえないが---本書に書かれた通りの人物だとしたら、陽平は世間の誤解にもかかわらず、人類愛に溢れたとんでもなく寛容な人物ということにもなる訳で―――未だに、どちらを信じてよいのか迷っている―――。
陽平は良一の妾腹の子、私生児として生まれ子供時代は極貧ともいえる日々を送った。
その後、良一の下で生活することになるが、下男としての生活を送り嫡男としてみとめられたのは良一の晩年になってからのことである。
本書では沈船ナヒモフ号からの財宝の引き揚げといった数々の詐欺事件において騙されるなど、晩年には耄碌の為とも思える失敗を重ねる良一に忠誠を尽くし、更には良一の事業を乗っ取ろうとする様々な勢力を排除することで、彼の起こした慈善事業を発展させていった遼平の事績を様々な関係者へのインタビューや、徹底した資料研究によって浮かび上がらせている。
今までに、ほとんど知られていない笹川陽平という人物の事績をかなりの程度に至るまで掘り起こしており、ある種、創作上の人物伝のようにも思えてしまう。
事実かどうかは未だに判断しかねるが、物語としては、間違いなく面白い一冊である。
(14年12月発行)