東北ショック・ドクトリン 古川美穂 岩波書店
関東大震災で壊滅的に破壊された東京の街並みを近代都市として再生させる大プランを作り実行した後藤新平の業績は高く評価されているが、ある意味では古くから残る歴史的な街並みとは似てもにつかないただ機能重視の無味乾燥の街並みにしてしまったという批判もないではない。後藤新平は復興の神様であると同時に、震災という大災害を千載一遇のチャンスとしてとらえた冷徹なプランナーでしかないという批判もあるのだ。
東北大震災という未曽有の災害において多くの犠牲者の命が奪われ多くの村々が壊滅的な被害を受け、この被災からの復興は日本人にとってある意味では有無を言わせぬ義務となった感があり、この復興事業の為に莫大な国家予算が無制限に使われることになった。
この「復興予算」が、沖縄における水産研究だとか、主要省庁の改築費用などおよそ東北復興とは縁のなさそうな事業にいつの間にか使われていたことが当初から問題になっていたが、本書で取り上げたのは、まさに便乗といってよい、経済学者ナオミ・クラインのいうところの「火事場泥棒の資本主義」の数々の例である。
まずやり玉に上がったのが、東北メディカル・メガバンク構想という阪神大震災の時にも行われた災害便乗型の医療研究という名の災害復興とは全く関係のない事業であり、あるいは水産特区構想であり、仙台空港民営化、仙台カジノ解禁論などである。
いずれも、復興を契機に構想が生まれたというものではなく、以前から構想はあったものの予算がつかなかったものばかりだが、東北大震災を「千載一遇のチャンス」とばかりに便乗して進められたものであり、当然のことながら、実際の被災地ニーズには全く合致しない事業であるために、莫大な予算の無駄遣い、浪費に終わろうとしているものばかりだ。
考えてみれば、津波被害を千載一遇のチャンスととらえ地元のニーズや景観をまったく無視した高さ15メートル、長さ何百キロにも及ぶ防潮堤工事にしても、結局は予算がつくのならこれを消化しなければ損だとばかりに土建業界をはじめとする復興事業家たちが群がった事業であり、あと数年、数十年後には無残な残骸として東北の海岸に打ち捨てられるかもしれない―――。
社会啓発書としては面白い一冊だが、本書のいわんとするところが、人々が結局は被災者レベルまで、復興利権に大なり小なり浸されてしまった今、社会に与えるインパクトはほとんど皆無に近いと思えるだけになんともむなしい気がする。
(15年3月発行)