子宮頸がんワクチン事件 斎藤貴男 集英社
肺がんを予防するという国を挙げての大キャンペーンによって全国で一斉に接種がおこなわれた「イレッサ」の副作用によって全国で800人以上の死者が出た大薬害事件があったが、子宮頸がんを予防するとの触れ込みでこれまた国が10代の女の子を中心に「無料にするから全員接種せよ」というキャンペーンをおこなった「子宮頸がんワクチン」もイレッサ同様に数多くの副作用による薬害被害者を出している。
本来、その許可まで数年の実証試験期間が必要なワクチンであるにもかかわらず、このワクチンが異例の短期間で認可され、しかも国からの巨額の補助金により数百万人もの少女たちにいわば強制的に接種されるにいたったのには、巨大製薬会社と厳密な臨床医学データを実証すべき医学界とのあり得ないような癒着（試験を受ける側と採点側の癒着にも似た）があったこと、又、国費全額補助による接種の為の法整備を行うための政治家との癒着があったことなどが本書では鋭く追及されている。
そもそも「子宮頸がんワクチン」というネーミングを行っているのは、日本だけでありこのワクチンは、実は「ヒトパピローマウィルスワクチン」というありふれた感染症ワクチンにすぎず、子宮頸がん死を減らせるわけではないことが世界の医学界ではよく知られており、その副作用が激しいこともよく知られていたという。
しかし、なぜか、日本の癒着した医学界と製薬会社、そして政治家の巧妙なトリックによってあたかも「子宮頸がんにならないための特効薬」であるかのように人々は信じ込まされ、多くの少女たちが回復不可能なほどの重篤な副作用によって苦しんでいる。
薬害といえば、薬害エイズなどをはじめとして数多くの例が過去にもあった。
ハーバード白熱教室の、サンデル教授の「10人の命を救うためならば1人の命を犠牲にしても許されるか」の論議と同じレベルで、「いくらかの副作用による被害者が出たとしても多くの女性が子宮頸がんで命を落とさないで済むならば仕方がない」といった議論もあるものの、この子宮頸がんをはじめとする薬害問題においては、常に製薬業界と医学界、そして政治家や経済界（製薬会社の宣伝費で潤っている新聞などの媒体も）癒着という「不正」が、その薬害の裏に横たわっていることを本書は冷静な筆致で告発している。
朝日新聞がこの子宮頸がんワクチン接種普及の大キャンペーンを行っていたのも、あるいは副作用被害が出ていることを一切報じていないことも、製薬会社の子会社からの広告費収入が莫大であったことと関連しているのではないかという指摘も、実におどろおどろしく、興味深く読んだ。
（15年4月発行）