寺院消滅 鵜飼秀徳 日経BP
今や日本中どこに行ってもあると言ってよいコンビニだがその数は45000、一方、日本全国にある寺院の数は77,000というからコンビニの倍近いと言える。
日本人は無宗教だなどといわれるけれど、このコンビニとの数の比較でいうならば、日本人の生活というよりか日本社会と寺は切っても切れないほど密接な関係にあるといってもよいのかもしれない。
しかし、そんな我々日本人の暮らしと寺の関係は今や大きく変わりつつあるようだ。
というのも、77,000余りあるという寺の内、既に2万の寺は住職がいないいわゆる「無住寺院」となっており、これに加えて住職がいても、檀家数の急激な減少により経済的に立ちゆかなくなっていて宗教活動を行っていない「不活動寺院」の数も2000に上っており、無住および不活動寺院の数は今後も益々増えていくものと予測されている。
本書はそんな寺院の置かれた現実を直視し、失われつつある日本人と寺院を中心とした地域コミュニティー、そして宗教との関係をルポした中々意欲的な一冊である。
著者は日経ビジネスの記者だが、生家は京都の寺だという。そんな著者だけに、日本中様々な地域における寺の実態、そして数多くの住職や地元の檀家がいかに寺院消滅に向かう趨勢の中で困惑しているのかを、冷静に分析している。
確かに、否応なしに益々加速する地方の過疎化や都市への集中によって本来の日本社会を構成する土台であった地縁、血縁関係がその必要性を失ってどんどん薄れて行く中では、かつてのように地域の寺を中心としたある意味では煩わしいともいえる、地縁や墓を中心とした血縁関係は、無駄なものとして切り捨てられていく運命にあるのかもしれないし、又そういった近代化、西洋化に伴って日本人の死生観そのものが大きく変わり、墓地や葬儀のあり方に重きが置かれなくなっている以上は、「寺院消滅」という運命には致し方ないところがあるのかもしれないが－－－。
本来、「合理化」という言葉とは無縁であると思われていた個人の死生観や、死者を悼む「感情」と言った問題までもが、宗教が失われつつある現状では、行場を失っているという現実があることを、本書で改めて思わされて、なんともいえず寂しい気持ちになってしまったが―――。
（15年5月発行）