意識はいつ生まれるのか M・マッスィミーニ他 亜紀書房
30年も前ならば全くの未知の世界といってよかった「脳」の解明は近年随分と進んだ。
脳のどこがどういう感情を司っているのか、あるいは脳のニューロンのどのような働きが脳のどのような働きにつながっているのか――等々、まさに脳科学が脳の全てを解明する日もいずれ訪れるのではないか―――とすら思わせるほどだ。
しかし、脳の働きの中で我々にとってもっとも身近な物といえば、本書がとりあげている「意識」であるが、それでは「意識」とは脳のどのような働きのことであり、脳のどこからどのようにして生まれるのか―――というまさにイロハのイの問題からまったく分からなくなってしまう。
そもそも我々人間には「意識」があるということを誰もが知っている。では「意識」のない人間（たとえば、睡眠中や麻酔がかかっている状態）では「意識」はどうなっているのか―――ゴリラやチンパンジーは意識がないといえるのか―――等々を考えた時、ある意味ではこれは脳科学の問題という点を離れて「哲学」の問題になってしまう。（そういえば、デカルトはその存在論において「我思うゆえに我あり」と意識こそ存在の核であるといっている）
本書は多くの「意識論」が陥りがちな意識の哲学的考察については極力避けつつ、あくまでも神経細胞素子がどのように結合すれば意識が生じるのかについてといった脳神経科学、統合情報理論にもとづいたプラグマティックな考察を行っていく。
そういう意味では展開される論理はとっつきやすく、理解しやすい。(哲学的思考の堂々巡りには入らない)
しかし、読了し終わっても、さて「意識」とは何かとなると、ますます分からなくなってしまうという欠点があるのも事実。
それほど「意識」というものは摩訶不思議なものであるということなのかもしれないが――――。
(15年5月発行)