ペストの歴史 宮崎揚弘 山川出版社
ペスト〈黒死病〉菌はもともとはリスやネズミなどを宿主とする菌だが、これがネズミの血を吸うノミを媒介してヒトに伝染し、その後はヒトの息などによる空気伝染をしていくという代物だ。
その伝染力は強く、中世に度々起きた黒死病の流行によってヨーロッパでは人口の1/3あるいは半分を失うなどした結果、社会構成や文化の面で多大な影響を及ぼした。
近年のエイズやエボラなどの流行でも経験しているように、人類はこの種の伝染病に極めて弱く、又、最近のように交通の発達によって人の移動が極めて速くしかも広範囲になってくると、その防疫体制は、どうしても大掛かりにならざるを得ないし、またその体制作りは極めて難しいものになってきている。
本書は、ペストの最初の世界的流行といわれる、ビザンツ帝国のエスティニアヌス帝の時代、第二次の1340年から約500年に亘ってヨーロッパを繰り返し襲った流行、そして最後の流行である14世紀にクリミアを起源としてイタリアなどの西ヨーロッパを襲った流行についてまず詳しく述べるのだが、それらの流行を丹念に追い、いつどこでどれぐらいの期間の内にどれぐらいの人が黒死病で亡くなったのかといった記録、あるいは、充満する死への恐怖から人々が刹那的な享楽主義に陥っていった様子など、文化史などとの関連を含めて詳細に語っていく。
黒死病の脅威ということは聞いていながら、その詳細な数字などは知らなかっただけに極めて面白い一冊であった。
(15年5月発行)