独逸デモクラシーの悲劇 岡義武 文芸春秋
第一次世界大戦での敗戦を契機として勃発したドイツ革命によって帝政ドイツが崩壊したが、これによって誕生したのがドイツ共和国であり、この憲法が当時、世界で最も民主的といわれた先進的な議会制民主主義憲法、ワイマール憲法である。
しかし、この民主的憲法の下であの史上もっとも忌まわしいといわれた独裁政権であるナチスドイツが誕生したことは、このワイマール憲法が「短いそして不幸の歴史の中に生れ落ち、不幸の中に生き、そして夭折した一人の薄幸なるものの生涯にも似ている」といわれる由縁である。
本書は、戦前から活躍した明治生まれの政治史家岡義武が、ドイツ帝国崩壊までの歴史的経緯、当時の政治状況から説き起こしワイマール憲法成立に到る経緯、そしてヒトラーの台頭とワイマール憲法崩壊のドラマを論じた近代ドイツ、そして民主主義の陥り易いその仕組みの脆弱さについての歴史的名著である。
当時のドイツの社会構造を実に克明に掘り下げ、帝国主義、自由主義、民主主義、共産主義、そしてキリスト教教会主義等々間の相克がいかにしてあのような不幸な歴史を醸成してしまうのかを説いていく手法は、実にドラマチックでもある。
考えてみると、いまの世界政治もそして日本の置かれた政治状況も、あのワイマール共和国が直面してしかも崩壊していった過程と大きくは違っていないように思える。
中国の覇権主義、北朝鮮の自暴自棄ともみえる金一族の暴虐、そして世界に蔓延する拝金主義とグローバリズムという名の剥き出しの弱肉強食、民族主義、人種問題Etc、Etc---これだけの問題同士がせめぎ合っている中で「夢想的民主主義」だけでは何の問題も解決しないし、かといって他の方法も容易にみつかるとは思えない―――。
「歴史に学べ」とはいうものの、本書で岡義武が教える教訓を、現代の我々はとても学び取れないのではないか―――とも思う。
（15年6月発行）