ちょうちんそで 江國香織 新潮文庫
6つの章というか、6つの短編が一つの物語を構成しているという形が中々小粋さを感じさせる小説であり、この作家の「手慣れた上手さ」を感じさせている。
主人公は50代半ば、高級高齢者施設で暮らす雛子。
彼女は他の入居者とは一定の距離を保ちながら日々、「架空の妹」(何年か前に消息を絶っている)との会話を続けている。
そんな雛子には、驚くような過去がある。最初の夫と子供との幸せな暮らしを捨てて2度目の夫との愛の暮らしに飛び込むが、その夫が自殺、アル中になった経験を持ち、その後いまの施設での一人暮らしを続けている。
この高齢者施設で暮らす人々も又、それぞれが他人には言えないような過去を持っている。彼等の中に、そんな雛子を気遣ってなにかと声をかけてくる夫婦もいるが、彼等にも例え妻にも言えないような驚くべき過去があり、雛子が捨てた息子夫婦も幸せな家庭を築いていたのに、ある時突然、そんな幸せな家庭が崩壊してしまったのには、やはり彼等にも人には言えないような過去があったからだ―――。
人の人生は一度きり、一度選んでしまった道は二度と後戻りできないというテーマと、人は皆それぞれが他人にはいえない秘密の過去を何かしらもっているというテーマなどを、中々上手く一本の小説としてまとめ上げてもいる。
「まさか」と思うようなエピソードが多いようにも思うものの、いやいや、そんなこともあるかもしれない、と思わせるとリアリティーも十分に感じさせるし、なるほど、この作家のストーリーテラー振りは中々高度だなぁ〜と感心した。
（15年5月発行）