夏の沈黙 ルネ・ナイト 東京創元社
発表以来、世界各国で評判を呼んだというベストセラーミステリーだ。
テレビドキュメンタリーのプロデューサーとして活躍しているキャサリンには20年前の休暇旅行で起きた事件の秘密がある。
本人が封印し、関係者は既に死亡しているはずのその事件を、まさに再現したかのように描いた小説が彼女の家に送られてきた。主人公の名前や関係者の名前は変えられてはいるものの、キャサリン自身はそれがあきらかにあの事件を描いたものだということが分かり激しく動揺する-――。
その事件というのは20年前にキャサリンと夫のロバーツが5歳になる息子のニコラスとともに休暇旅行で出かけたスペインのビーチで起きた事件だ。ニコラスが溺れかけ、それを救助した19歳の青年、ジャスティンが溺死してしまった事件だ。
5歳になる息子が沖に出る時に、母親のキャサリンは何をしていたのか―――。ジャスティンとはそれ以前に一度もあったことがなく彼はあくまでも「行ずりのひと」だったというキャサリンの証言は、事実だったのだろうか―――。
2013年、キャサリンにその小説「行ずりの人」が送られてきた時と、25年前に事件が起きたスペイン、そしてジャスティンの父親であるスティーヴンとそしてその亡妻であるナンシーの視点と語り手と、時間の違う一人称で物語が進む。
ミステリーの王道ともいえる伏線の張り方、どんでん返しのタネまき、なども割とよくできているし、時制や語り部の転換なども手慣れた感じもあるし、さらにはインターネットなどの現代ツールを登場させるなどの新しさも加わって、各国でベストセラーとなっていることは十分理解できるが---。
ミステリーを読むのが久しぶりという所為もあるのだろうか、やや、話の展開がまだるっこしい過ぎる（演芸でいうところのタメを作りすぎている感じ）ところとか、「どんでん返し」の意外性についてのいい訳めいた説明が後半部分にちょっとしつこすぎる感じで出てくるところなど、自分にとっては「がっかり度」の高い作品であった。
(15年5月発行)