古代エジプト死者からの声 大城道則 河出書房新社
「人」は「死」を怖れるが「人」以外の動物は、死を怖れるだろうか？
動物が「死」というものを怖れないとしたら（多分そうだろうと思うが）、それは彼等が「死」という概念を持つだけの知能の働きがないからだろう。
すなわち、人は他の動物よりはるかに優れた知能を持つが故に、この豊かな文化を築き、そして自分達が他の動物より「はるかに幸せな存在」であるという優越感をもっているが、その知能があるがゆえに常に「死」を意識し、そして「死」を怖れていなければならないとしたら、動物より人の方が本当は幸せとはいえないどころか、動物の方がよほどしあわせなのではないか？等と思う。
本書は、古代エジプト人達が死、もしくは死後の世界をどのように理解していたかを通じて、世界人類の祖先がどのような死生観をもっていたかに迫る中々面白い一冊だった。
よく知られているのは数万年前に絶滅したネアンデルタール人の埋葬遺跡の中から、彼等が死者を弔ったと思える、花や装飾品が発見されているというし、古代エジプトのピラミッドをはじめとする遺跡の多くは、それが作られた目的が、あきらかに死者を死後の世界へ送り、その死者の魂が復活することを願うことにあったことからも、人類はその歴史を通じて、死、そして蘇り（再生）という死生観を共通してもっていたことがわかるという。
日本をはじめ、世界各地の死生観と古代エジプトのそれとの共通点を次々と指摘していく本書の内容は、中々説得力があり実に興味深いものばかりであった。
(15年6月発行)