英語の害毒 永井忠孝 新潮新書
例えば「学歴主義批判」というのがあるけれど、学歴だけでその人物の評価なんてできる訳がないことなど誰でも知っていることだけに、「学歴主義批判」は至極まっとうな意見であるにもかかわらず、学歴のない人でしかもさして成功しているとはいえない人がこの批判をやっても、耳を傾けてくれる人がいないということはよくある。
それだけに、学歴があって実力の世界で成功している人が、「学歴主義批判」をやれば、聞く耳を持つ人は多いとは思うが、中には、「自分だって学歴の恩恵を受けているのになんだ！」と思う人も多いかもしれない。
いずれにせよ、至極まっとうな意見でも、中々主張し難い意見というものはあるというのが事実だ。
日本に於ける最近の変な英語偏重傾向には、常々オカシイのではないかと思う人が多くても、「英語が苦手」という人がそれを批判しても、ヤッカミととられかねないし、又、そう取られることを予想して、敢えてこのオカシナ英語偏重に声をあげる人は少ない。
本書の著者は長年英語教育に携わってきたアメリカで博士号も取得しているという経歴からも、今の日本の妙な英語偏重に対する批判を主張するには十分な資格をもっているといってよく、本書の内容の多くが至極的を射たものではあるものの、そこは学歴偏重批判と同じで、今の「小学生から英語教育を！」とか「英語教師は、ネイティブスピーカーの白人に限る！」なんていう妙な日本の英語教育論に汚染（？）された今の日本では「異端の暴論」と取られる面もあるのではないだろうか。
著者はまず基礎的な学習言語(I/O 会話言語)を学ばなければならないのに、会話言語に貴重な学習時間を削っていては日本人の学習能力は劣ったままで終わる可能性が高い（例え、ありきたりな日常会話力は身についても、抽象的な内容が伝達・理解できる「学習言語能力」は身につかないのでは何にもならない）という。
本来日本人が学ばなければならない語学は、自分の主張を論理的にまとめて発表するなどの高度な能力の手段であるべきものであり、今の日本の英語教育の行く末は、政治やビジネスで英米人の使用人になるための、いわゆる植民地化を自ら進めているようなものだというのだ。
社内共通言語としての英語を採用している会社があるというが、その会社でゆくゆく社長や役員全員が白人になってしまったら〜、それでこの会社は「国際化」できたと喜ぶのだろうか？
その他にも中々胸のすく英語化批判は痛快であった。
(15年6月発行)