新編 イソップ寓話 アーサー・ラッカム(絵) 風媒社
古くから、世界中の子供たちに親しまれたイソップの寓話集だ。
イソップは紀元前6世紀頃に実在した寓話の名手で、その身分は奴隷だったともいわれているが、定かな記録は極めて少ない。
そんなこともあって、イソップ寓話といわれるものは、その時代時代によってあるいは版ごと寓話の総数も違うし、インドやアラビアなどの古くから語り継がれた物語が入っているなどとの重複もあるなどしていて、どれがオリジナルのイソップなのかについても定かではない。
本書は、1912年にラッカムが編集し、さし絵を描いたものを底本としており、いずれも一度は聞いたことがある、あるいは読んだことがある名品ばかりだ。
動物等を主人公にして、教訓的な寓話に仕立てるという手法は、今でも世界中で子供たちに「欲張りはよくない」「ウソをついてはいけない」「働け！」(アリとキリギリス)といった社会ルールを教えるために、あるいは「人は負け惜しみをするものだ」(狐とぶどう)などの人生の機微を滑稽に描いたものなど、そのバラエティーはさすがに二千数百年、人々に好まれ語り継がれた名作寓話だと思えるものばかりだ。
行進する軍隊の先頭でラッパを吹いていた男が敵軍に捕らえられたて命乞いをした。「殺さないでくれ、おれは誰も殺していない。このラッパのほかには武器ひとつもっていない」だが、敵兵はこたえた。「それを聞いたからには、お前を生かしておくわけにはいかない。自分は戦わないくせに、みんなを戦場にかりたてたのだからな」（捕虜になったラッパ吹き）
現代の政治家、評論家だとか、コメンテーターなどと呼ばれる連中もこのラッパ吹きにそっくりだ。
（14年4月発行）