園芸家の一年 カレル・チャペック 恒文社
趣味というものはどんなものであれ、それに興味のない人にとってはその趣味に熱中している人の振舞は、滑稽なものに写るのではないだろうか。
料理だとか、家庭菜園作り、編み物といった多少なりとも実用性、実利のあるものならまあ、やっていることの意義は分からないではないけれど、ガンプラ作り、ブリキのおもちゃのコレクション、熱帯魚等々、マニア相手の商売としてやっている「プロ」ならそれなりに熱心にやる理由があるような気がするけれど、全くの素人の趣味となると、その面白さが分からない者にとっては、「一体、何が面白くてそこまでのめり込むのだろう？」と首をかしげるだろうし、その熱中ぶりは滑稽にさえ思えるかもしれない。
もっとも、趣味にしている人にとっては、「この面白さを知らないなんて、あの人は可哀想だから、是非、それを教えてあげたい！」と、熱心にその面白さ、楽しさを語り始めるだろうが---。
チェコの国民的作家であるカレル・チャペックが1928年、というからかれこれ90年前に著した本書は、今も園芸に趣味をもつ人達にとってのバイブルともいわれる名著だとか。
チャペック自身がいうところの「決して大きくない庭」にありとあらゆる花の苗を植え、時間があれば、というよりはできうる限りの時間を割いてその世話をする楽しさを、一年12カ月毎の作業日記的に描いた作品で、兄のヨセフ・チャペックがなんともいえぬ味のあるさし絵を描いている。
一年間、花々の世話に追いまくられ、雨が降れば降ったで、あるいは降らなければふらないで、庭の草花の心配をし、一年中、次の作業は何をすべきかに追いまくられる―――楽しさを、自虐を込めたユーモアあふれる文章で綴っていて、確かに読む者に、自分もやってみようか、と思わせるに十分である。
1月からはじまった、園芸家の一年が終わる雪が降り始めた12月の章でチャペックはこう書いている。
「さあ、これですべてが終わった―――庭が雪に埋もれた時になって(園芸家は)何か忘れていたことを思いだす。すなわち庭を眺めることだ。なぜなら、おわかりいただきたいが、そんな暇がなかったのだ」いや、なんだかわかるような気がする。趣味というものの真髄をついているように思う。
(97年10月発行)