虫の虫 養老孟司 廣済堂出版
趣味という物はすべからくと言ってよいが、それに興味のない人にとってはどうでもいい物だ。
ある人にとっては楽しみでやっていることであっても、同じことを仕事にしている人にとっては、さほど面白くないということは良くある。（趣味の釣りが嵩じて漁師になった人は、趣味で釣りをやっている人のようにはそれを楽しんでいるだろうか）
その点、本書の著者である養老先生にとって「虫」は趣味なのだろが、「バカの壁」などのベストセラーの著者として、本書のような「趣味自慢の本」を出版する-――という実利も得ているのだから、「趣味を仕事にして楽しんでいる」というなんとも羨ましいものである。
かつては虫の写真を表紙にして大変な売れ行きだった小学生用の「ジャポニカ学習帳」も、最近の子供は「虫の写真が気持ち悪い」と不評になったこともあって、3年前には発売中止になったというが、著者の年代、いや身の廻りにまだ虫がたくさんいた時代に育った子供にとって「虫取り」は、最大級の楽しみであったし、大人になっても、「虫取り」と聞けば目の色が変わる人が多かったものだが、今の子供にとって虫とは、「気持ち悪い」存在でしかなくなった―――というのだから本当に時代は変わってしまったということなのだろうか。
78歳になられるという養老先生による、虫取り熱中記が本書だが、冒頭書いた通り、虫に興味のない人にとってはまさにどうでもよい話かもしれないけれど、やはり、子供の頃の一時期、虫取りに夢中になった身にとっては、ラオスへの虫取り旅行記などの部分を含めて、なんとも羨ましい限りの話ばかりで、十分に楽しめた一冊だ。
(15年7月発行)