昔日の客 関口良雄 夏葉社
自分は「本好き」だけれど、読んだ後の本は、あっという間に溜まってしまい狭い家には置き場所がなくなってしまう―――そんなこともあって引っ越しの度に随分と処分を重ね、さらには10数年前に一念発起して、全ての蔵書を処分し、それ以降は、本を買ってもいく冊か溜まると図書館に寄贈するなどして辞書以外の本は持たないように―――している。
立花隆氏のように蔵書数万冊の置き場所として「ネコビル」という愛称で呼ばれるビルを建ててしまったとか、毎月数千冊出版される本を買わずにはいられなかったといわれる故井上ひさし氏のような「本好き」もいるから本好きといっても実に多種多様ではある。
そんな多様な「本好き」の中には古書店巡りをして、古い本、あるいは今や貴重になってしまった古本を探すことが趣味という古本マニアという種類の「本好き」がいる。
本書の著者も、そんな類の「本好き」が嵩じて自ら古書店を開き、そんな古書店稼業を通じて懇意になった客や文筆家多数、という筋金入りの「本好き」だった人だ。
本書は、そんな著者の遺稿を集めて1978年に出版された随筆集を、その内容のすばらしさに共感して、たった一人で運営する自らの夏葉社という2010年再版にこぎつけたという一冊で、まさにこの島田潤一郎という出版社社長も、やはり筋金入りの「本好き」ということなのだろう。
著者関口良雄は、35歳の時に大森で古本屋を開業、尾崎一雄、上林暁などの「作品書目」をはじめ幾人かの馴染の作家たちの出版も手掛けるなどして昭和52年に59歳で亡くなっている。
本書はその関口良雄が業界紙などで発表した随筆集であるが、尾崎士郎、尾崎一雄、上林暁、野呂邦暢等々や、文人たちと交流、あるいは著者自身の様々な思い出といった題材を取り上げており、確かに島田氏が惚れこんで再版にこぎつけただけの「埋もれていた名随筆集」といった感じがする。
今も神田には有名な古本街があって年季の入った「本好き」の店主と客でそれなりになりってはいるようだが、新刊ばかりではなく古本までネットで買える時代に急激に変わっていることを思うと、本書の著者や島田氏のような「本好き」は、段々と「絶滅種」のような存在になっていくのではないか――と何となく寂しい気持ちにもさせられるが---。
（10年10月発行）