グルブ消息不明 エドゥアルド メンドサ 東宣出版
江戸で見世物小屋をやっている男、なにか珍しいものはないかと諸国を歩いている内に、江戸から遠く離れた村のはずれで5歳ぐらいの一つ目の男の子と出会った。「この子を江戸に連れて行き、見世物小屋に出したら大儲けできる！」と捕まえようとしたところ村人に「人さらいだ！」と捕まってしまったが、村人たちはこの男をみるや「おい！こいつ、目が二つあるぞ！」と珍しがられ、その村の見世物小屋に出されてしまった―――といった筋の「一つ目国」という落語がある。
この、小説を読んでいてあの一つ目の落語を思いだしてしまった。
特別な任務を担って地球に派遣された二人組の宇宙人、降り立ったのはオリンピックを前にしているバルセロナであった。
姿かたちが地球人とは全くことなる宇宙人の一人である「グルブ」は地球人に紛れようとスペインの国民的女性人気歌手であるマルタ・サンチェスの姿になったのだが、その姿のまま、もう片方の宇宙人の前から行方不明になってしまった。
そこで、もう片方は、グルブ捜索と任務遂行の為に、ゲイリー・クーパーやオリバーレス公などに姿を変え街に出た。
あの92年のバルセロナオリンピック前という時代設定、しかもスペイン・バルセロナという特定の街を舞台にしたのは、このSFコミック調の小説がその時期、バルセロナの新聞に連載されたという事情があったからのものだが、日々の出来事、市民が慣れ親しんだ町や、店が出てくること、しかも、そんなバルセロナの読者の常識とはあまりに異なる宇宙人のバルセロナ認識とのギャップに連日、捧腹絶倒し大いに人気の上がった連載立ったという。
そういう事情を知った上で、しかもふんだんに挿入されている注釈を参考にするならば、確かにこの小説、街や登場人物を変えさえすればどこの国でも、あるいはどんな人たちにも大いに楽しめる小説であることがよくわかる。
我々が、当たり前と思っていることの全てが、宇宙人にとっては理解し難いことばかりだということも、例の「一つ目国」の落語を思い出せば納得できる。
ある居酒屋に行ったら、そこには石原裕次郎そっくりの姿をした宇宙人が客として飲んでいるとか、美空ひばりに変身した宇宙人がカラオケで歌っていたら―――なんていうそのトンチンカンさは楽しいし、そんな宇宙人が酒場を経営する老夫婦としたしくなって馴染になったり、人間の女性に恋をしたり―――等というストーリも中々、感動的だ。
（15年7月発行）