タモリと戦後ニッポン 近藤正高 講談社現代新書
タモリは、昭和20年8月22日というから日本の終戦の1週間後に生まれている。
そんなタモリが70年代に博多のサラリーマン生活を切り上げ、突然のようにテレビ界に出てきて、「4か国語マージャン」などのお座敷芸をきっかけに人気者になっていった軌跡は、ニッポンの戦後カルチャーとパラレルなものであるだけに、著者の着眼点は良いし、彼の2年後、昭和22年生まれの自分にとっても何か自分史を振り返るような部分もあて、あるところでは大いに共感したし懐かしく面白かった。
本書が新書となっているのは、一般的な「タモリ本」といわれる、タモリの個人的エピソード集とか、カルチャー論をまとめたものとは一線を画して、実際に紙にのこされた資料や、関係者からの証言によって本書がまとめられていることによって、確かに、それにその時代の流れを色濃く記述することで「戦後史」を描くという、新書的な史料価値が認められる点にあるかもしれない。
もっとも、お笑い界の三巨頭ともいわれた内のビートたけしや、明石家さんまなどとは全く異なるキャリアやお笑い界に対するアプローチを持ち、早稲田大学在学中にはモダンジャズにのめり込み、アルバイトでジャズバンドの演奏旅行の司会をつとめるなどして、一部のバンドマン、漫画家、作家などに「面白い男」として認められる中で、テレビ界であの「笑っていいとも」などの長寿番組を経て、遂には一家を成すに至ったタモリの経歴がもつ「親しみやすさ」といったものもよく描き込まれており、また、この間、見えないようでいて実は、タモリ自身の年齢に合わせて、彼がいかにマイナーチェンジを繰り返してきているかなどを描いた、人物論的な分析の面白さも本書の価値を高めているようにも思う。
（15年8月発行）