丸山眞男と田中角栄 佐高信・早野透 集英社
従軍慰安婦の虚偽報道に関する朝日新聞の全面的な謝罪・訂正の後、さすがの朝日も強制連行については一切触れていないが、WSJのオオニシ記者と、かつて朝日の論説をリードしてきた早野透氏などが、未だに、あたかもあの朝日の虚報騒ぎなどなかったかの如く（さすがに強制連行があった、とはいっていないものの）日本は未来永劫、謝り続けるべきだと主張している。
今や、「最低の宰相」とのレッテルを張られた鳩山、菅の民主党政権に対する評価は、あたかも日本全体が「そんな時代があったことは忘れたい！」と思っているかのようになっているのに、あの時代（のみならず、あのトンちゃん首相や、辻元清美女史等々も）「あんなによかった時代はなかった」と言い続けているのが、本書の共著者、評論家の佐高信である。
一時は、「鋭い政府批判」などと一部（朝日新聞など）では持ち上げられていた二人だが、最近はさすがに呆れられたのか、さっぱりその活躍が見えなくなっている。そんな二人が、思い切りボヤキまくっているのが本書の対談だ。
戦後リベラル派といわれる思想の一つの柱とも持ち上げられた丸山眞男、そして、たしかに「戦後日本でもっとも影響力のあった人物」第一位には挙がってはいるものの、逆の意味では、日本社会の腐敗、堕落や日本の外交の戦後における失敗の原因ともいわれる田中角栄を、ヨイショしまくるというこの二人の対談は、ある意味、まだ、こんな、時代錯誤の評論家がいるのか！と、ちょっとした驚きではある。
大学時代、丸山眞男の「現代政治の思想と行動」を（読みもしないのに）小脇に抱えているのが「かっこいいインテリ」だと思われているような雰囲気があり、何人かの級友が持って歩いていたものだが、丸山眞男は、全共闘運動の挫折とか、べ平連の小田実などの台頭で、結局は守旧派的な存在として「進歩派」学生からも敬遠されるようになってしまったし、田中角栄も一時は「列島改造」などの目新しい着想や「コンピューター付きブルドーザー」などともてはやされもしたが、そのすさまじい金脈問題や、政界の闇将軍としての暗躍によって、すっかりその威厳も「日本のダーティーさの象徴」として凋落していった。
終戦の年に生まれたという佐高と早野の二人は、結局、丸山・田中の呪縛から解けないままに、現代まできてしまったということなのかもしれないが、その時代を生きてきた同じような体験をしてきた同世代人にとっては、「なんであの丸山眞男が現代ではほとんど忘れられてしまったのか！」とか、「一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったし、今太閤などともてはやされた田中角栄が今や完全に悪者扱いされているとは―――」といった二人のボヤきは、案外、懐かしくてすんなりと耳に入り共感する人も若干ながらいるかもしれないが－－－。
丸山の民主主義論には、（ここでは詳しく触れないが）学生時代から反発もあり、田中角栄についてはその全ての軌跡において批判的であった自分にとっては、本書の二人の対談の内容は、反発ばかりあって、最後まで読み終えるのが結構、苦痛だったとことは事実だ
(15年7月発行)