灯台の光はなぜ遠くまで届くのか テレサ・レヴィット 講談社
名刺大とハガキ大のフレネルレンズを持っている。胸ポケットに入れて持ち運びができ細かい字を読む時、天眼鏡として使うのに極めて便利な代物だ。
このフレネルレンズ、その原理を発明したのはフランスの科学者、オーギュスタン・ジャン・フレネルであることを本書を読んではじめて知った。
彼は、灯台の設備が貧弱で、しかも光が遠くまで届かないために海難事故が相次いでいた1800年頃のフランスで、灯台の光を遠くまでしかも輝度を失わずに送ることができるレンズを開発した人物だ。
その原理は通常のレンズが、中心に行くほとレンズが厚くなり、灯台などで使用しようとすればレンズが余りにも巨大になり重量も増し、又制作コストが巨額になる割に光が分散してしまうという欠点を、レンズを同心円状の領域に分割し（のこぎり状にレンズを削ることにより）厚みを減らしたのである。
このレンズの、のこぎり状の断面の数を多くすればするほど薄くなりしかも、材料を減らし軽量にできる上に逆プリズム効果により光の発散を防ぎ、光を効率よく遠方まで届けることができるという優れもののレンズである。
本書は36歳で夭逝した天才技術者フレネルが、このレンズ制作を思いついた過程、あるいは、この若き天才の発明に対して悉く妨害工作を行った旧弊に囚われていたラプラス等のフランス科学界の重鎮たちに対して、フレネルやアラゴンといった革新的科学者がいかに戦ったか、あるいはフレネル亡き後、その業績を継いだフランスの新技術をかたくなに拒み続けたアメリカの灯台利権者たちとの戦い、といった科学歴史活劇的なドラマなどで綴られており、一気に引き込まれ読了してしまった。
今、世界の灯台のほとんどはこのフレネルレンズを使っているとのことだが、1800年初めごろといえば、わずかこの200年程の間に、海の安全がいかに構築されていったのかの歴史も実に興味深かった。
（15年10月発行）