資本の世界史 ウルリケ・ヘルマン 太田出版
民主主義がベストの政治形態ではないが、他にこれに代わるほどより良い政治形態は未だ見つかっていないことは、チャーチルが喝破した通りだが、資本主義も今のところ、経済を動かす仕組みとしてこれよりマシなものがないことは、共産主義や社会主義の経済体制が一つは崩壊し、もう一つも余りにも多くの問題を抱えていることからもいえる。
本書ではそんな資本主義がどのようにして生まれ、どのような物なのかをもう一度一から考え直してみたという一冊だ。ドイツの元銀行員だったという経済ジャーナリストが書いたこともあって中々読み易く、興味深い一冊だった。
著者が指摘するいくつかの点には、目から鱗のようなところがある。
先ず、著者は、資本主義の誕生の歴史は極めて浅いものだという。その誕生は、イングランドの産業革命前期であり、多くの人々がそれまでの生活水準維持の為だけに行っていた生産を、蒸気機関といった効率的な生産性向上の手段を使うことによって、「生活水準向上」を計りはじめ、そのために必要な投資に用いられる「資本」を必要としはじめたことによって始まったという。
そういう意味では最近は混同されがちな「資本主義」と「市場主義」とは全く別物であり、又「資本」と「金」とは、これまた全く異なる、という著者の主張は納得がいく。
「資本」というものが誕生の経緯からも言えるように、あくまでも「成長」を目指すものである以上、いつかその成長が限界に達した時には（無限の成長はあり得ない）資本にも終わりが来る、という指摘も、アベノミクスの金融政策で超低金利を幾ら続けても、もはや成長が見込めないと考えた投資家や企業経営者が融資を受けて新たな投資を考えようとはせず、益々負債の返済に金を回してしまう「流動性の罠」に陥ろうとしている近年の日本経済をみていると、これまた納得がいく。
網羅的ではないものの「資本主義」に関するトピックには興味の持てるものが多く、中々面白い一冊だった。
(15年10月発行)