進化する遺伝子概念 ジャン・ドゥーシュ みすず書房
ヒトゲノムの解析が進んでいく中で、遺伝子とは4種類の塩基によって構成されているDNAのある部分の一組に「書かれた」遺伝デジタル情報のことであり、ゲノムとはDNAの二重らせんに描かれた「設計図」のことだ、といった理解が一般的になされるようになったのは事実だ。
しかし、同じ「設計図」を基に生まれた双子の兄弟が、DNA的には全く同一であるにも関わらず微妙な違いを持って生まれ、又、もちろん全くの別人格であることを、どう説明するかとなると、既成の「遺伝子概念」は、微妙に揺さぶられるのは事実でもある。
本書は、メンデルの遺伝実験から始まりダーゥイン、そしてワトソンとクリックのDNA二重らせんの発見をもカバーする遺伝学に於ける遺伝概念の変遷を俯瞰しつつ、最新の遺伝子概念に迫るという中々の意欲作である。
特にDNAのデジタル情報が遺伝を決定づけるのではなく、環境との相互作用を幾度となく繰り返すなかで動的な生命システムがもつ情報がDNAのデジタル情報と相互作用を行うことによって偶然と選択との産物として遺伝情報が形作られる―――という指摘には、一瞬、疑いの目を向けるところもあるが、まさに「生命の偉大さ」はこういうシステムによってこそ実現しているのではないだろうかと、妙に納得させるところがある。（なんだか、アメージンググレイス（偉大なる力）といった論調になるところが、今一つ納得いかないけれど――）
近年に至る迄の多くの遺伝学研究者の列伝、業績も丁寧にふれられており豊饒な遺伝学研究の歴史を知る上でも大いに参考になる一冊だ。
（15年9月発行）