傾国子女 島田雅彦 文春文庫
女性に生まれたからにはブスに生まれるより美人に生まれた方が得だ、というのはまあ間違いのないところだろう。
ところが、そこそこというか十人並のちょっと上、程度の美人と超美人とではどうだろうか、となると話は中々ややこしくなってくる。
世界三大美女の一人と（日本では）いわれている小野小町が年老いて乞食になったという謡曲があるように、若い時に美人としてもてはやされたことと、その老後の哀れさを殊更対比して語られることの落差は大きく、普通の美人が普通のおばあさんになるのに比べれば、なんだかあんまり美人過ぎるのもよくないような気になってくる。
島田雅彦のこの小説は「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリの挿画などを入れてあるところからも分かるように、ある種、マンガチックな仕立てにしたファンタジー小説といった趣だが、テーマも「好色一代女トゥデイ」とでもいうべき、美人に生まれしかも誠実な主人公が、その美貌ゆえに遭遇してしまう過酷ともいえる転落の人生を描いたもので、女性達には「私も、そこまでの美人に生まれなくてよかった！」と思わせ、男どもには「そうそう、男っていう奴は皆、美人に（でなくてもそこそこの女なら）出合うとこんなバカなことをやってしまうものだよなぁ〜」と共感を呼び覚ますという中々エンターテイメント性のある小説だ。
白草千春は、13歳のときに彼女を溺愛する父の、多額の借金のカタとして父の知人の小児科医である花岡の家に母ともども移り住む。母は生活力のある花岡にぞっこんで彼と一緒になるが、花岡の真のターゲットは千春だった―――。
ここから千春の転落の人生が始まる。といっても、千春に群がる男たちは、ヤクザや、京都の黒幕、首相のドラ息子に、政界の若手ホープ等々、それこそ超一流ぞろい。
そんな千春だったが、その正義感からそういった男たちの悪を暴こうとして逆に返り討ちにあって転落の道を歩んでいく―――という、波乱万丈の展開となっていく。
島田雅彦が色々な作品のパロディーを意図してこの物語を作っているという「遊び」の部分もあって（特に「嫌われ松子の一生」）、どの作品のパロディーなのかを想像する-――といった楽しみもあり、楽しめた一冊だった。
（15年8月発行）