戦後政治の証言者たち 原彬久 岩波書店
オーラルヒストリーとは、実際に政治にかかわった当事者たちにインタビューを行い、政策決定の現場を再現していくことで歴史を描いていくという研究方法だが、当事者の思い込みや記憶違い、あるいは自慢話を含めた誇張を排除し歴史資料としての客観性のある資料とするためには、インタビューを行う本人との信頼関係の構築に寄る、より率直な見解の聴取はもちろん、その客観性を得る為の事前の十分な資料の読み込み、あるいはその決定にかかわった関係者、すなわち他の与党政治家、官僚や秘書、野党の政治家から、反対運動の指導者に至る迄の幅広い人々からの十分な聞き取りが必要だ。
本書の著者は、このオーラルヒストリー研究の第一人者であるが、本書に収められたその期間は幅が広く、その為に前半部分と後半部分ではそのインタビューはどちらかというと、かならずしも関連性は強くないトピックであるところが、若干物足りない感もある。
本書の一番の読み処は、戦後日本の体制を形作ったともいえる岸内閣による安保条約改定過程をそのまさに当事者である岸信介に約1年半に亘ってインタビューし、さらには秘書の中村長芳、岸の「黒幕」役といわれた矢次一夫、三木武夫・福田赳夫といった自民党政治家、安保改定にかかわった外交官、社会党関係者へのインタビューにより、歴史的現場の再現を行っている前半部分だろう。
もうかれこれ半世紀前のダイナミックな日本の政治シーンが生々しく蘇り、その迫力に圧倒された。
（15年8月発行）