宇宙背景放射 羽澄昌史 集英社
現在最先端の宇宙論によれば宇宙の誕生以前には空間も時間も存在していなかったが、ある時突然宇宙に満ちていたエネルギーが熱に変化し、その直後の10の34乗分の1（1秒の1000兆分の1の1000兆分の1の１万分の１）秒後に数十桁も大きくなるような猛烈な加速膨張（インフレーション）を起こした結果ビッグバンが起きて誕生したと言われている。
猛烈な膨張をしている初期宇宙では光はまっすぐ進むことができなかったがビッグバンから約38万年後、宇宙の温度が低下し電子と原子核が結合して原始を生成するようになった時、光子は電子との相互作用を免れ直進できるようになったのだが、この宇宙誕生から38万年後の「晴れあがり」の時期のマイクロ波は「宇宙背景放射」とよばれ宇宙の全方向から発せられていて、ビッグバン理論のもっともよい証拠といわれている。
著者はこの宇宙背景放射という現在観測可能なもっとも古い宇宙の姿以前、すなわち宇宙誕生直後に発生したと考えられる原子重力波とBモード偏光を発見しようとしている実験物理学者である。
理論物理学者ではなく、実際チリのアタカマなどにおいてその痕跡を探すという気の遠くなるほど地道な作業を繰り返している方が、その実体験に基づいて最新宇宙論を解説し、さらには世界中の数多くの実験グループによる、この重力波とBモード偏光の発見競争の熾烈さを語るという本書は、理論物理学者による解説以上に迫力が溢れている。
本書は著者が語ったものを編集者が文章化したものらしいが、その分、素人にも理解しやすい文章になっており極一部を除いて専門的知識を必要としないのも読者としてはうれしい。
宇宙の果てから届く宇宙誕生直後の痕跡発見のニュースが近いうちに聞けるかもしれないと思うと、益々最新宇宙論から目が離せない。
(15年10月発行)