世界史を変えた薬 佐藤健太郎 講談社
「歴史にifはない」とはいうものの、確かに本書に書かれているようにもし、マラリアの特効薬であるキニーネが発見されていなければ、ヨーロッパ列強によるアフリカ植民地化は成し遂げられなかったであろうし、植民地化がなければ、世界の歴史は今とは全く違ったものになったであろう。
本書で取り上げられた「世界史を変えた薬」とは、今や我々がさほど妙薬、名薬と思っていないほどにありふれている薬（モルヒネ、サルバルサン、ペニシリン、麻酔薬、消毒薬、アスピリンといった）ものばかりだが、こういった薬が「ありふれた」あるいは「あるのが当然」とおもわれる薬になったからこそ人類の平均寿命がこの100年余りで倍近く延び、世界人口が70億を超すまでになったということが本書では丁寧に述べられている。
たしかに、麻酔薬がなければ今行われているあらゆる種類の手術は不可能であろうし（美容整形を麻酔ナシで受ける女性がどれほどいるだろうか）、臓器移植なんていうものはそれこそホラー映画と同じになってしまう。
著者は国道マニアとしての著作もあるなど幅広い分野の著作をものにしている人であり、文章もじつに読み易い。
（参照：「ゼロリスク社会の罠」 「炭素文明論」 「ふしぎな国道」）
（15年10月発行）