コネクトーム セバスチャン・スン 草思社
本には文字化された情報が記録されていて、コンピューターには情報がコード化されてストーレッジされている。
そんなイメージからややもすると我々は人間の脳にも様々な情報が何らかの形でストーレッジされ、それが「記憶」だと考えがちだ。
では具体的に、我々の記憶は脳のどこに、どういう形で記録されていて、それをどうやって取り出しているのだろうか―――となるとこれが今に至るもさっぱり解明されていない。
例えば大脳皮質の前頭前野と言われる部分が人の記憶や創造、自制などにかかわっているということは分かっていても、それがどのような形でそのような働きをしているのかとなるとこれが中々分からない。
一つの有力な仮説としては人間の脳の中にあるニューロンとニューロンの繋がりであるシナプスの結びつき方である「コネクトーム」にこそ記憶が形作られる仕組みがあるのではないかということが有力視されてはいるが－－－。果たして人間の脳はコンピューターのハードディスクのようなものだと機械論的に理解してよいものなのだろうか。
あるいは例えば脳のニューロンとシナプスの結びつきは、砂糖水のようなもので水溶液の全ての分子の位置を特定できたとしても（膨大なデータ量になるだろうが）それでもそのコード通りの水溶液を作ったところで（データ量が大きすぎてつくれないとは思うが）前の砂糖水とは違う物ができてしまうということになるかもしれない－－－。
本書は、そんなコネクトームにかかわる様々な思考を様々な実験結果などをまじえて解説したもので、いってみれば、脳の全神経細胞のネットワーク地図作りのための基礎の解説ともいえる。
さらには第２章では、もし脳内の全コネクトーム地図ができた場合、その地図をコンピューター内で再現すれば、人の意識はコンピューター内で再現できる―――人はついには永遠の命をえることができる―――という可能性について語られていて、なんだか夢のようではあるものの、その一方、空恐ろしくなるような思考実験がなされていて興味深い。
（15年11月発行）