現代俳句にいきる芭蕉 堀切実 ぺりかん社
「俳句」という詩形が世界文学の中でも確固たる地位を占めている理由はどのあたりにあるのだろう。
五七五のわずか十七文字という極短い詩形でありながらそこに込められた作者の詩心が、これよりもはるかに文字数の多い様々な詩形のそれよりも意味深く感じられるのは、字数の多い詩がどちらかといえば、作者の側の詩心を読み手の側に「伝える」という部分が多いのに比べて俳句は、その詩形が短いが故に読み手の側がその詩心を自分なりに解釈する必要があり、読む側一人一人がある意味では自由にその詩を解釈することができるという要素が強いところに、世界に類のない「詠者と読み手の共同作業」といった斬新な創作の世界ができることに俳句のユニークさがあるのではないだろうか。
様々な解釈可能を可能であり、又、短いが故に漂わせる詩心に対して今度は、読み手の側の詩心が共鳴することによって－－－俳句という詩形は、実に多様な新たなる「詩」を創りだすことによって、俳句には無限ともいえる魅力を醸し出しているということができるのではないだろうか。
本書は、子規、虚子、あるいは兜太などの現代俳人が、いかに俳聖芭蕉の「詩心」を解釈し、そこから何を汲み取り、新たな詩を作ってきたかを、丁寧に解説した大作である。
すなわち、芭蕉の句をいかに解釈し、その句の良さをどこに感じ取りそれをいかに発展させてきたかを子規、虚子、兜太などの作品を分析することによって味わい、又、ひいては作者なりに芭蕉の詩心の解釈の中に自らの詩心を感じ取っていく―――という作業は、現代俳句論に必然的になって行く訳で、著者の俳句論の集大成的な意気込みが感じられる一冊である。
著者は、子規、虚子、兜太などの俳句がそれぞれに自己主張する中でも、実は芭蕉の俳句から汲み取れる、芭蕉の俳句の特徴のどこを強調するかによって、その個性に違いが出てきていることを彼等の句を詳細かつ、豊富に提示することによって説いていくのだが、その説得力は、著者の俳句のみならず多岐にわたる文学の素養に裏打ちされているだけに抜群だ。
本書を読んであらためて俳聖芭蕉の偉大さを感じさせられた。
（15年10月発行）